導波型非線形光学デバイスに関する研究
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導波型非線形光学デバイスでは、光閉じ込めにより高効率な光波長変換が期待できる。本研究室では1988年頃から非線形光学デバイスの研究を始め、理論的・実験的検討を続けてきた。当初は光記録用小型短波長光源としての応用をめざした光第2高調波発生(SHG)デバイスの研究を中心としたが、現在はDWDM光通信システムなどへの応用を目指した長波長域の波長変換デバイスに重心を移して研究している。スタンフォード大などとの共同研究も行っている。
基本形となるLiNbO3導波型擬似位相整合差周波発生デバイスを下図に示す。信号光(ws)と励起光(wp)を入射して差周波(wd=wp-ws)を発生することにより波長変換を行う。分極反転グレーティングを用いて3光波間の位相不整合を補償すること(擬似位相整合・QPM)で、透明波長域内の任意波長間での波長変換が可能である。同一波長帯内での波長変換の他にもバンド間波長変換や多波長一括波長変換など多彩な波長変換機能が実現できる。このような光通信用波長変換特性の解析を進めている。
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導波型擬似位相整合差周波発生型波長変換デバイスの基本形
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QPM構造作製と光導波路作製の技術確立は重要な課題である。分極反転グレーティング作製法は種々の方法を検討してきたが、電圧パルス印加法の優位性が明確になってきた。種々の反転構造を再現性よく作製するため、フィードバック制御を有する電圧パルス印加装置を開発した。電極の材料や構造の改善を進めており、サブミクロン周期の極微細構造や数cmの相互作用長が得られるようになった。光導波路作製には、主にプロトン交換法を用いているが、気相プロトン交換法やZn拡散法などの独自の方法も試みている。Zn拡散導波路は、両偏波導波可能で光損傷耐性が高いと考えられ、波長変換デバイスに適していると期待できる。そこでZn拡散導波路作製技術確立とその波長変換デバイスへの適用も検討している。また光通信応用上重要な偏波無依存型波長変換デバイスなど新規なデバイス構造の提案も行っている。プロトン交換導波路を用いた試作デバイスでの波長1.5
mmバンド内波長変換実験の結果を下図に示す。現在、設計・作製条件の最適化による高効率化を行っている。また、Zn拡散導波路を用いたデバイスでも波長変換実験で予備的結果を得ており、偏波無依存型デバイスへの適用を検討している。
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波長変換実験結果
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超高速光信号処理デバイスに関する研究
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強誘電体結晶の非線形光学効果は超高速現象であり、擬似位相整合導波路技術の適用により多くの超高速光信号処理デバイスの実現が期待できる。将来のOTDM光通信システムへの応用可能性を探求するための基礎研究を行っている。デバイス構成の考案、理論設計、超短光パルス非線形相互作用の理論シミュレーション、デバイス作製と評価を行ってきた。
LiNbO3導波路QPM和周波発生(SFG)デバイスを光乗算器として用いた光サンプリングの実験では、10 psのサンプリングパルスにより従来のバルク非線形光学結晶を用いたサンプリングより約3桁高い効率のサンプリング動作を実証した。
超高速光スイッチの例として、制御光から発生した第2高調波と信号光の間の差周波発生を利用したカスケードSHG-DFG波長変換型光スイッチを作製して10
ps制御パルスによるスイッチング動作を確認した。また最近、QPM-SFG部を持つ干渉計構造の光スイッチを提案・作製し、基本的なスイッチング動作を確認した。これらのデバイスの波長域拡大・効率改善やサブピコ秒動作の実現をめざして検討を続けている。
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SFGデバイスによる光サンプリングの実験系
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カスケードSHG-DFG型光ゲートスイッチ
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SFG干渉計型光ゲートスイッチ
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希土類ドープ導波路レーザに関する研究
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強誘電体結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3:LN)は顕著な電気光学効果,音響光学効果,非線形光学効果を示す優れた光学結晶です。この結晶を用いた多くの光導波路デバイスがこれまで研究されてきました。本研究では、LN導波路レーザデバイスを研究しています。LN結晶にレーザ作用を付与するために、レーザ遷移を示す希土類元素をLNに添加します。レーザ作用を付与したLN結晶を用いることにより、これまでに無い新規機能をLN導波路デバイスにおいて実現できるので、本研究の成果がLN導波路デバイスの新たな応用分野開拓につながるものと期待しています。
一例としてネオジウム(Nd)添加LN導波路レーザを図1に示します.Nd添加LN基板上の光導波路とその両端面の多層膜鏡がレーザ共振器を構成していて,Ndの吸収ピークである波長814nmの光で励起することで波長1084nmのレーザ光を得ます.作製には,まずNd薄膜をLN結晶上に堆積して1070℃,300時間の熱処理により結晶中へ拡散します.深さ6?m程のNd添加層が得られます.その後,溶融安息香酸中でLi+⇔H+のイオン交換を行って光導波路を形成,最後に多層膜鏡を端面に装加して完成します.共振器長は20~40mm程度です.レーザ発振特性を図2に示します.レーザ発振開始にともなう出力光パワーの急峻な立ちあがりが分かります.この場合の閾値パワーは2mWでした.高出力用に設計したデバイスでは最大で30
mWの出力パワーが得られています.
添加する希土類元素はNdに限りません。光通信波長帯(波長1.5?m付近)で発光するエルビウム(Er)や、高いエネルギー変換効率が期待できるイッテルビウム(Yb)を添加した導波路レーザデバイスの検討も行っており、いずれにおいても連続レーザ発振が実現できています。
単にレーザ光を得るだけでは、LN導波路レーザのメリットは出てきません。LNの優れた各種光学効果を組み合わせ,高機能レーザデバイスあるいはレーザ内蔵の高機能光導波路デバイスを実現したいと考えています.導波型電気光学変調器を集積化したQスイッチ導波路レーザや,非線形光学第2高調波発生素子を集積化して波長542nmの緑色光を発する導波路レーザを実現しています.
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Nd熱拡散LN導波路レーザ
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レーザ発振特性
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集積量子井戸半導体レーザに関する研究
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半導体導波路に活性素子と受動素子を集積したモノリシック光集積デバイスの研究を行っている。量子井戸レーザやグレーティング素子の設計・作製、量子井戸無秩序化によるバンドギャップ制御技術の検討などとともに、全集積干渉型変位センサ、光集積ディスクピックアップなど具体的応用のための高度な機能をもつ光集積デバイスの提案・設計・作製・評価を行ってきた。チャルマース工科大学との共同研究も行っている。
現在研究中の集積半導体レーザのひとつは、DBRレーザ発振器とテーパ型パワー増幅器およびグレーティング結合器を集積したモノリシックMOPAレーザである。結合器のパターン設計により、平行ビームや集光ビームを出力するためのビーム整形機能を付加でき、また増幅器で生じる波面収差を補正できる。高出力・高コヒーレンスなレーザとして、非線形光学デバイス・光ファイバ増幅器の励起光源などへの応用が期待できる。曲線走査電子ビーム描画・イオンエッチングなどの技術で試作したデバイスでCW
183 mWの出力と回折限界に近い良好な平行出力ビームが得られている。
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グレーティング結合器集積MOPAレーザ
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非線形光学デバイス励起光源としての応用では、高出力とともに発振波長制御が必要である。テーパ増幅器・グレーティング結合器集積デバイスとハーフミラーで構成した外部共振型可変波長レーザを提案した。結合器の波長分散を利用して波長可変特性を実現する。量子井戸を選択的に無秩序化して結合器領域の受動導波路損失を低減することにより、高出力化・可変波長域拡大を図っている。良好な平行出力ビームが得られ、21 nmの波長チューニングが達成できた。両方のデバイスの高出力化と波長域の拡大、さらに高度な機能の実現をめざして検討を続けている。
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集積化外部共振型波長可変レーザ
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量子フォトニックデバイスの研究
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情報処理・通信・計測の技術革新に向けて、レーザ光のフォトンとしての特質を活用する未来技術として量子暗号や量子計算などの理論的研究が活発化していますが、デバイス化の研究はまだ殆ど着手されていません。本テーマでは、非線形光学デバイスとモノリシック光集積回路の研究蓄積を基礎として、量子光学的機能をもつ新たなフォトニックデバイスの実現可能性を探求します。非線形光学効果によりスクイズド光や相関光子対発生などの量子光学機能を実現でき、導波路構造を用いれば半導体レーザ励起で動作する高効率デバイスの実現が期待できます。集積半導体レーザは適当な設計により、単独でサブポアソン光発生などの機能を実現できる可能性があり、非線形デバイス励起光源としても利用できます。これらの機能は将来技術である量子情報処理・通信・計測のための重要な要素技術であり、ナノフォトニクスのための広波長域光源・極限性能光源としての応用も期待できます。
本グループの現行の研究を本テーマの観点から発展させるとともに、研究者交換による国際共同研究を積極的に行います。種々の具体的なデバイスについて理論解析、設計・作製技術の確立、デバイス試作と実験的検討により実現可能性を実証し、将来の量子情報通信における応用可能性を探索します。
平成14年度は、量子光学機能の理論解析、および非線形光学デバイスと集積半導体レーザの基本構造の作製技術確立と改善に重点を置いて研究します。ニオブ酸リチウム結晶に周期的な位相整合構造と光波閉じ込めのための導波路構造を形成して非線形光学デバイスを試作し、スクイズド光(光子間隔が規則的で雑音が標準量子限界以下の光)や光子対(生成時刻が同時で相関をもった2光波)の発生特性を実験的に調べます。またインジウムガリウム砒素半導体結晶内に量子井戸構造と曲線状周期構造を形成して高性能半導体レーザを試作し、高周波域定電流駆動によりサブポアソン光(強度雑音が標準量子限界以下の光)発生の特性を測定し、可能性実証を行うことを目標とします。
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以前の研究
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[1] Outline of Research
[2] Research Subjects
[3] Facilities
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